2016年2月10日水曜日

Testament of Youth 戦場からのラブレター なぜ今更? 英国も実は不寛容のLGBT?


アリシアちゃん主演の戦場からのラヴレター、Testament of Youthがとても素晴らしかったので、原作本、手紙本(まだ途中)と読んでみました。アリシアちゃんの熱演は人をそこまで突き動かすだけのパワーがありました。これらの本、邦訳出てたら一時的にでもベストセラーになったのではと思われます。 ですが・・・、劇場公開もすっ飛ばされた映画の原作本の邦訳が今更出ることってあるのかしらん。・・・ないでしょうねぇ。
原作本到着を待っている間にもちろんネット検索にも励みウェブ上の情報も読み漁っておりました。
そして…多いに疑問がわいたのです。


何故、今更、ヴェラ・ブリティンが弟エドワードの性癖を知っていたか否かや、そのことを一切Testament of Youthに書いていないことを責めるかのような調子の記事も多いのか・・・? 
数点見かけた記事はスキャンダル暴露の様相。概して内容は以下の2点。

1. ヴェラの弟エドワードは同性愛者であり当時は犯罪者であった。
2. ヴェラは弟の同性愛嗜好を隠蔽して、実は犯罪者の弟を戦争の悲劇の英雄であるかのような本を書いた。

1. 単に事実であるが、この暴露記事の大半はすべて近年のものである。BBCでルパート・グレイプスがやったドラマが出たあたり(1998年?)と特に映画が出た2014年のものばかり。歴史家マーク・ボストリッジの研究が元であり、ボストリッジが親族であるシャーリー・ウィリアムズ女史の許可が出て出版の運びとなった手紙本(Letters from a Lost Generation)が出たのが1998年。 第一次大戦中に国王から十字勲章受けた将校が密かに同性愛者だったことが、そこまでのスキャンダルなのか? あっても不思議ではない話…くらいにしか私は思わないのだけど?

2. この批判は的外れとしか思えない。

ヴェラがエドワード宛に書いた特定の手紙の一部を抜粋して、ヴェラは知っていたのに、そのことに触れず、弟を英雄に仕立て上げたとの非難記事。

その手紙の抜粋されている部分の概略はこんなの。
「あなたにとって人間は性(ジェンダー)でなく、能力や本質の方が大事なのよ。あなたはまだ若いし、何年かたてば、結婚したいと思う人だって現れるわよ」

私が入手したのはこの2冊のみ
エドワードがたった22歳で世を去ったことを思えば、何の不思議もない若い姉からさらに年下の弟への手紙。これで同性愛者であることを隠蔽した証拠になるほどのものなのか?
ちなみにこの手紙のやり取りの経緯も原作本にはある。

エドワードはパブリックスクールボーイで士官学校出のエリート。なので若くとも戦地では兵卒を率いる将校で、自分の部隊の兵士たちのこまごまとしたことも上官として世話をやかなければならない。エドワードはある日、自分の部下のまだ若い少年兵に実は子供がいて、恋人から養育費云々言われていることの相談を受けた。若い部下は相手と結婚する気はあるけど、両親にそのことを言い出せない。そこで上官のエドワードが一役買って彼の両親へ手紙を書くことになる。
エドワードはそのあまりありがたくない役回りに時間を取られることの愚痴と、自分は今まで会った女性の大半に好感を持てず、将来自分が結婚するとかなんて想像できない、何か育てられ方でも間違ってたのだろうか…といった旨の手紙をヴェラあてに書きつづっており、↑はそれに対してのヴェラの返信。そして上述の部分の前にはヴェラからの『大半の人間は異性であるってことだけで女性に惹かれているだけ。』があり、合間には『(エドワード同様に人の本質を見るのは)私も同じ』『本質で見るなら決して賢くもない女の子に好きな人がいなくても不思議はない。』とその当時女だてらに大学進学した気の強いヴェラが普通の女性を下に見ている様子も伺える。

ヴェラはエドワード戦死後にもローランドの時と同じように、当事者を訪ね、その最後を尋ねたらしい。ですが当時エドワードの上官は死の前日に起こったことと自分の推察をヴェラに伝えなかった。それは遺族への配慮だったのでしょう。 この上官がヴェラに「実は・・」と本当のことを伝えにきたのはヴェラがこのTestament of Youthを出版したあとのこと。
ヴェラが本を出したので、その時には語らなかった事実を10年以上もたってからわざわざ伝えにやってきたのです。
つまりヴェラは原作本を書いた時点で、エドワードが軍法会議にかけられる予定だったことなど明らかに知りようはないはず。
エドワードは戦死する前年に国王ジョージ6世から赤十字勲章を授かり、ブリティン家だって当然それは誇りに思っていたことでしょう。そしてこれは戦地での彼の軍功の賜物以外の何物でもないはず。ですが、それってもし彼が軍法会議にかけられて有罪になっていたら取り消し、剥奪されるようなものだったの? 彼が国のために行った功績は同じなのに? 
2009年にアラン・チューリング(昨年公開されたイミテーション・ゲームの主人公)の同性愛禁止違反扱いを政府が謝罪したことを思えば、そんなことをしていた暁には政府が遺族に訴えられかねないでしょう。 なのになぜ、今どきスキャンダル扱いなのか?

私は手紙本を編集して出した歴史家、そしてヴェラ・ブリティン研究家のマーク・ボートリッジをとても不快に思う。この人は映画のコンサルタントにもなっている方だけど、手紙本が出版されたのが1998年。 
ヴェラがTestament 出版後の1934年、エドワードの元上官が訪ねてきて真実を告げたとは言われているものの、ヴェラとその上官がどのような話をしたのかはどこにも記録がないらしい。
ヴェラの父ブリティン氏はその後の1935年、入水自殺し、ヴェラがフィクション小説ということで戦時中に自分が同性愛者であることを明るみに出すよりは黙して名誉の死を選んだ将校の話(
Honourable Estate)を書いたのが1936年。
1960年生まれのオクスフォード出の歴史家マーク・ボストリッジはエドワードの元上官の息子を見つけ、その息子に父親の遺品の日記類を見せてもらい、それらの記録によると、エドワードは手紙が検閲に開けられた結果、彼が同クラスの将校とだけでなく、自分の部隊の下層クラスの兵士複数ともそっちの関係を持ったことが明らかであり、(それってパワハラ? にしてもいったいどんな手紙よ?戦火の中そんな暇あるの?)エドワードは軍法会議にかけられる予定であった。
なんでもヴェラの娘、シャーリー・ウイリアムズからジェフリーがエドワードに送った手紙類を含めて出版する許可がヴェラの死後10年以上もでなかったそうで、その理由はジェフリーがエドワードに送った手紙により彼らの関係が明らかになるから…ならしい。そういった話を映画の公開とともに自分の写真入りで新聞掲載してるボストリッジ氏。

ちなみに・・・、私が映画で感動したエドワードがヴェラに送った手紙数点は原作本にちゃんとありました。 
映画用に多少追加部分もアリのようだけど、基本的には実在しました。
この最後のパラグラフが好き

それで、ジェフリーの手紙は? 
ヴェラが死体扱いされたエドワードを見つけだして介抱したくだりは映画のフィクション部分。なので、エドワードがヴェラにジェフリーからの手紙を「聞いて」と読む部分もフィクション。であればあの手紙もフィクションの可能性はアリ・・・。
映画ではジェフリーの登場は少ない。けど原作本ではヴェラ自身がかなりのまめにジェフリーと手紙のやり取りをしているのです。ローランドの死後、ヴェラを励ましたのはジェフリーとヴィクターの二人。ジェフリーはヴェラをコンサートに連れて行ったりもしていて、ヴェラ自身のジェフリーへの評価がとても高いの。容姿の美しさやその人柄に対しての。

ジェフリー戦死の知らせはヴェラはエドワードから電報で知らされます。ジェフリーの上官はエドワードがジェフリーと親しかったため、わざわざ自分でエドワード宛てに手紙を書いています。その手紙は原作本、手紙本の両方に掲載。
で、結局、10年以上たって許可も出たはずの手紙本のどこに明らかな手紙があるの・・・?かわからない。ジェフリーのエドワード宛ての手紙は確かに長いし親しげ(そしてイマドキの感覚には古風に思える)。とはいえどう見てもそのものずばり関係を語ってると思えるのはない。(ってまだ全部熟読まではしていないけど、私が見た限り)。映画のあの美しい手紙が一番、あー、そうなんだ…と察せるレベル、あの手紙以上に、あーヤッパリなるほど…と思えるものってないのです。
そしてこれに関してエドワードを演じたタロン君自身がエドワードについて「原作本も読んだけど、新聞でスキャンダル記事がでていたを読んだ。エドワードはホモだということを映画はやんわりと匂わすように描いていた。」そして「ケント監督に言われヴェラと双子のような弟を演じた。」とインタビューで話してます。つまり、やはり原作本にはこれがそうだ!なんてものはないのです。

昔の人が恋人同士であからさまな性描写の手紙をやり取りしたとは、ストレートの方でもそうそうあるとは思えず、そういった意味では彼らがそういう関係でもそれが露骨に手紙に書かれて残っている…とはそもそも考えにくいと思う。もしかしたら、ボストリッジ氏の意図を不快に思った遺族が提供したくないと(残っていたこれだけの手紙を一枚一枚赤の他人に当たる娘が読んだとも考えにくい。残っていても大事に保管しておくくらいでしょう)渋ったのは事実なのかもしれませんが。

英国って今は同性婚も合法なのに暴露記事のようあと少しで100年前になる昔の人の話がでるのか?…それだけでかなり不可解。その昔の基準では犯罪だったから? この暴露記事もどきが派手に出ているのは映画公開前の2014年。同性愛禁止法に反したというアラン・チューリングへの扱いが不当だったと署名運動がおこり、政府が謝意を表したのが2009年。そのような流れの中でなぜスキャンダル扱いなのかさらに理解できない。

実は英国はBGLTに対してかなり不寛容なのだろうか?

もう一つ思うのは、反戦運動家として作家として名を挙げたヴェラと名士である娘を貶めるための恣意的なものに思えること。名声を得た女性へのやっかみと風当たりなのか…? 出る釘のごとく、女だてらに名を挙げたヴェラやウィリアムズ女史を叩き、貶めるのが目的? 日本のテレビでならいくらでもありそうな低レベルなゴシップの様相だけれど。

ヴェラは弟が同性愛者だということに、ショックを受けたかどうか、おそらく彼女の解釈では「弟は性(ジェンダー)でなく人間本質を見る高尚な人だったから」であり、その彼が時代の中で選択せざるを得なかった人生を肯定してフィクション小説(私は未読)を書いたのだろうと思われます。

当時の基準では半端じゃなく気も強く、キョーレツな女性だったらしいヴェラ*自身が一般的な女性を下に見ているところがあるため、(原作本の記述で明らか。ただイマドキでもそんな女の子ごまんといるでしょう。自称、しっかりしていて男友達の方がいいという女嫌いの女の子なぞ)弟が女性に興味がなくとも、即、同性愛を疑うよりは、そりゃそうよね、あんな幼稚な生き物…くらいに納得していたと考える方が妥当としか思えません。

彼女にしてみれば弟が自ら死を選ぶまでの心情を思う方がつらかっただろうことは想像に難くない。

そしてフツーに他者を思いやる配慮のある人であれば、その彼女の辛さを思うだけで身が切られそうな気持になると思うのですが・・・。

また、この事実はヴェラがTestamentを出版しさえしなければ、表に出なかった事実。エドワード元上官も本が出なければ黙したままに終わり、ヴェラもブリティン氏もエドワードの真実など知ることはなかった。そして、ブリティン氏も自死することもなかった。この事実にヴェラが気づかないわけはなく、そのことも自責したのではと思うと・・・やりきれなさを感じてしまいます。(涙)
ブリティン氏は息子の嗜好を受け入れられずショックで自死してしまったけど、ヴェラはそれでも弟を肯定したくてただフィクション小説を書いたのでしょう。フィクションなのは…それはヴェラも全く想像でしか書いてない部分だったから。そしてそのフィクション小説があるからエドワードが同性愛者だというのは事実であった…と結論付けるくらいでしょう。スキャンダル記事への発展は理解不能。

このヴェラは弟の同性愛を隠ぺいして悲劇の英雄扱いして書いたとあげつらう人々の品性を私は疑う。 それが真実を追求しているとでも? 亡くなった人々の功労を貶めることに何の意義があるのか。

ヴェラは小説を書いて反戦活動を続けた。小説を書いたのは戦争の悲劇と反戦を訴えるため。ヴェラは正しいことをした。なのに、それが裏目に出て、弟の性癖暴露という名誉棄損に近い事態と父親の自死になってしまった。

ここで私はヴェロニカ・ゲリンを思い出した。ケイトブランシェット主演の映画にもなった話だけど、アイルランド、ダブリンで麻薬組織を撲滅するために尽力していた女性ジャーナリストがマフィアにさんざん脅迫されたものの屈服せず追求し続けたため殺害された話。彼女には夫もまだ幼児の息子もいたのに。彼女の死後、その死を無駄にするなと法改正までされ、麻薬組織は一掃され、ダブリンの治安は向上したのである。
ヴェロニカ・ゲリンは正しく素晴らしいことをした。けれど、そのために小さな男の子はママを亡くした。彼女が正義のために戦わなければ、夫と息子とともに幸せにその後何十年も生きていたかもしれない。夫と小さな息子はその方が幸せであっただろう。彼女はマフィアを追求し続けたことを後悔しただろうか。

ヴェラは婚約者と弟、親しい友人を戦争で失った。その犠牲を忘れず無駄にしないよう反戦活動をしたためにさらに家族(父)を失うことになった。弟の名誉も汚す扱いを受ける(死後?)ことになった。ヴェラは本を書き反戦活動をしたことを後悔しただろうか。

こういうどう見ても世のために正しいことをした人々がそのために何かを犠牲にしてしまった様子を見るのは忍びないと私は思う。心の中で密かにありがとう、皆のために…くらいのことは思う。その悲しい犠牲を尊いと思いこそすれ、揚げ足を取ってわざわざ貶めはしないだろう。

これらのスキャンダル記事をあげつらう人々はそのような感性を持たないのだろうか? 持たないし、その似非正義感に優越感すら覚えているのかもしれない。 私はマーク・ボストリッジが嫌いだ。 

彼の業績はエドワードが同性愛者であったことを白日にさらし、この戦場のラブレターにて、キングスマン効果で腐女子の注目を浴びるタロン君に初ゲイ役が当たり、腐女子の萌え心にさらに火をつけたことくらいである。それだけとしか思えない。
IMG

追記 2016.02.10. 07:00
ヴェラ役のアリシア・ヴィカンデルは過日SAG-AFTRA(映画俳優組合)の助演女優賞を受賞しました。The Danish Girl(リリーのすべて、3月日本公開予定)のGerda 役です。おめでとうございます!!

それに伴いロスでこの間の日曜、アリシアちゃん本人に会えるQ&Aイベントがあったそうで、アンクル仲間のお兄様お姉さまが参加されてきて、DVDにサインもらったりしていて沸いてました。

めちゃくちゃうらやましいですぅ~。





   


手前の帽子は今でもアンクル関係の製作には係る半世紀来の
ナポソロファンのお父さん
【どうでもいいことですがおまけ】
☆↑* のヴェラが強い女性であったことを書いていて思い出した。DVD特典のアリシアちゃんインタビューで彼女が「ベラにもしあっていたとしたら、すぐ好きになったと思うわ」と言ったということに字幕で書いてありましたが大いに違っています。アリシアちゃんは「ヴェラはとっても強い人で、もしその場にいて初めて会って好きになれるかどうかはわからないけど」と言っておりました。

☆ゲイスキャンダル記事のひとつで、ジェフリー演じたジョナサン・ベイリーの写真にTaron Egertonと記載しているアホなのがありました。コメント欄にクレームをつけている人がおり、私も当然、この記事どこまで正確なのかしらねという嫌味とともに便乗クレームを残しておきました。本日見たら、写真はエドワードとジェフリーの二人が一緒のものに変えられていました。こちらの記事。見てやってください。年明け1月初めごろはジェフリー写真のままだったのに。
ちなみにこの写真はタロン君、エドワード部分のみがフィーチャーされている形のものは皆知っている写真です。暗い顔したエドワードの隣に実はジェフリーがいたとは・・・!この発見に関してはこのゲイ暴露記事(?)はお手柄ですね。

Before
(Taron Egertonと書いてあった!)





After






☆ほかに私が読んだ記事
比較的妥当と思われるものはこちら

0 件のコメント:

コメントを投稿